来世の魔導書

壁打ちBlogです

クレーンゲーム恐怖症

 私はホラーゲームより、クレーンゲームが怖い。何の成果も無いのに、スルスルと飲まれていく貨幣が怖い。微動だにしない景品が怖い。そして、店員の優しさが怖い。

 

 10年前、私は友達とゲームセンターに行った。一通りゲームを楽しみ帰ろうとしたその時、大きなクマのぬいぐるみが目に入った。
 別に欲しい訳では無いが「なんか簡単に取れそうだな」と思った。1回100円ではなく200円という値段設定が「200円なら取れるようになってるやろ!」……という、根拠のない自信を私に与えた。

 

 友人に「やってやるぞ」と誓い、200円を入れた。私は正面、友人は横からクマのぬいぐるみを見つめた。「アーム行き過ぎ!」「もうちょい手前!」なんてやり取りがあった。 ……あったと思う。今ではその光景をほとんど覚えていない。

 

 問題だったのは、取れない事だ。1回200円。5回で1000円。1000円もあれば音ゲーが10回できる。メダルなら50枚くらい貸し出される。合理的に言えば帰りに美味しい晩御飯が食べられる。つまり、1000円とは偉大なのだ。……なのに、そんな絶大な力を持つ1000円が、ラーメンのようにズルズルと飲み込まれていく。これはもう恐怖でしかない。

 

 いくら替え玉を頼んでも頼んでも、クマのぬいぐるみが満腹になる気配はない。2000円分の替え玉を与えても、クマはその場を動こうとしてくれない。そろそろ席を立ってもいい頃なのに、奴はまだおかわりを要求してくる。

 

 「……分かった。もうダメだ。私の降参だ。参った参った。君には負けたよ」
 私は友人に「これはダメだ」と伝えた。「そうだな」と応えた友人と一緒に、これ以上居座る必要の無いその場から立ち去ろうとした。 ……その時だった。

 

 

――「ぬいぐるみの位置、調整しましょうか?」

 

 一語一句間違いなく、そんな感じの言葉を店員が言った。
 その若い女性店員がいつから見ていたのか、どこから見ていたのだろうかは分からない。ただ、その気遣いが私の不器用さ、そして途中で諦めるヘタレっぷりを知っている事は明らかだった。要するに彼女は、何度も何度も挑戦しても結果が得られない敗者に、救いの手を差し伸べてくれたという訳だ(おおげさ)。

 

 ……最初に言ったが、私は別に商品は欲しい訳ではない。大きなクマのぬいぐるみが欲しい訳ではない。「なんか簡単に取れそうだな」と思っただけだ。

 「おい~w 別に欲しくないのに取れちゃったよ~w」
 「お前ばかだな~w 邪魔なだけだぞ~w」

 ……みたいなやり取りがしたかっただけだ。別にそれが知らないアニメの人形でもいいし、30本入りのうまい棒でもいい。なんならジュースでもいい。1プレイ200円のクレーンゲームに取れるかどうか分からない130円のジュース入れてたっていい。

 

 つまり私は景品が欲しい訳ではない。景品が取れたという達成感が欲しいだけだ。要するにメンドクサイ客なのだ(?)。

 

 なので「ぬいぐるみの位置、調整しましょうか?」という店員からの善意に、私は内心「勘弁してくれ!」と思っていた。……思っていたのだけれど、私は気弱な陰キャオタクなので「あ、はい…… ありがとうございマスゥ…… お願いしまスゥ……」と答えてしまった。

 

 そして店員さんが親切丁寧に不器用でも取りやすい位置にクマのぬいぐるみをセットしてくれた。「あとはボタンさえ押せればチンパンジーでも取れるぞ」みたいな感じでセットしてくれた(*個人の感想です)。

 

 そこから私はたいして欲しくも無い景品を相手に追加で1000円ほど投資した所で、店員がその場を離れた事を確認した瞬間その場をスゥッと立ち去ったのであった(早口)。
 めでたしめでたし!!!!!!!!

 

 ……ンッ! 誰も得しない昔話でしたね! いかがでしたか?(!?)

 私はその日を境にクレーンゲームをやらなくなりました。もう怖いよ。怖い。やっぱり人間が一番怖い。ゲーセンで怖いのは不良グループとクレーンゲーム、そして朝からメダルゲームをしているご老人が帰り際にくれるメダルだってはっきり分かんだね(*まんじゅう怖い感)。

 

 今日、ニュースで「オンラインクレーンゲーム『トレバ』による不正!」みたいな記事を見て「そういえばこんな事があったな」とトラウマを思い出してしまったので、皆様と共有したいと思い、差し支えながらお伝えした次第でございます。おしまい。

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